-fight reason-
一体どのくらい
強くなれば
お前を
守れるのだろう
「おいルート、もうギブアップか?」
晴天の空の下、俺と兄さんは剣の訓練をしていた。
「まだだ!」
辺りには鳥のさえずりの他に剣の音が鳴り響いている。
今日は午前中からぶっ通しで手合わせしているのだが、一度たりとも勝てていない。
はっきり言うと、今まで一度も兄さんに勝ったことは無かった。
「はい、タイムアップ。俺様の勝ちぃ。」
あんなにも長時間訓練したはずなのに、兄さんの息は一つとして乱れていない。
「ハァハァッ…くそ、なんで勝てないんだ。」
もう数え切れないほど戦っているのだが、まだ弱点すら見つけられていないのだ。
そんな俺と打って変わって、兄さんはいつも的確に俺の弱点を見つけ出す。
「お前の動きは単調で予測できんだよなぁ。それに、打ち込みが弱い。」
自分なりに努力をしているのだが、なかなか兄さんに追いつけない。
そう思うと、俺はまったく成長していないような気がしてなんだか気落ちする。
そんな俺を元気づけるように兄さんが付け足して言った。
「でも、筋は悪くねぇ。打ち込みも前より少しは強くなってんな。」
毎回、ダメ出しの後に言われるこの言葉が俺に少しの自信を付ける。
「ほ、本当か?」
「あぁ、お前ならまだ強くなれるぞ。まぁ、俺様には敵わねぇだろーけどな。」
兄さんの良く透る笑い声がこだました。
その自信満々な態度に少しムッとした俺は、嫌味っぽく言ってみた。
「お前の強さがおかしいんだ。そもそもなんでそんな力が残ってる。もう何年も戦っていないはずだろ。」
そんな俺に向かって、兄さんは当たり前のように答える。
「そりゃあ経験の差だろ。あとは勘だな。これでもだいぶ鈍ってんぜ。」
俺は言葉を失った。
兄さんは本気で言っているのだろうか。
もしそうだとしたら。
「お前はバケモノなのか?」
俺の言葉を聞いた兄さんは、少し苦笑いをして遠くを見つめながら何かを思い出すように言う。
「そういや、昔はそう呼ばれてたな。」
しばらく遠くを見ていた兄さんが振り返り、真剣な顔つきをした。
「なぁルート、お前はなんのために戦うんだ?」
その質問に俺は答えを詰まらせた。
昔から、俺を守って戦う兄さんを見てきて漠然と強くなろうと考えていたのだが、こうはっきりと聞かれるとあまりいい言葉が出て来ない。
「ルート、俺は自分の欲のために戦ってきた。そのためならいくら血を浴びようと、恨まれようとかまわねぇと思ってた。」
遠い、何年も昔のことを一つ一つ思い出しながら兄さんは言った。
「でも、それはちげぇんだ。それは、本当の強さじゃねぇ。」
兄さんは、まるで自分に言い聞かせるように言う。
「自分の欲のために戦う時代は、もう終わったんだ。」
そう話し終えた兄さんの横顔は少し寂しそうに見えた。
戦うために生まれた兄さんは今まで、戦うことで自分の存在を保っていた。
でも、今の時代に昔のような戦いなどない。
戦いしかしたことのない兄さんは、自分の存在理由が分からなくなっていたのだ。
そんな寂しそうな顔を見ていられず、俺は思わず兄さんを抱き締めた。
「ど、どうしたんだよいきなり!」
真っ赤になって慌てる兄さんをさらに強く抱き締めて、俺は強く言った。
「昔のことはどうでもいい。俺は、兄さんを守るために戦う。」
それを聞いた兄さんは、しばらくぽかんとしたあと大きな声で笑った。
「ハハハ…まったく、俺は頼もしい弟を持ったぜ。」
泣きながら笑う兄さんの声は、綺麗に晴れた空に消えていった。