ーdreamー




  今日、夢を見た
  とても懐かしくて
  心地よくて
  大好きな
  君の夢

  

「まったく、暇だぞ…」
天井を見つめながら、俺は呟いた。
日曜の午後は特にやることもないし、ついダラダラと過ごしてしまいがちだ。
誰かを誘って遊びに行こうとも思ったけど、皆忙しくしているみたいで誰もつかまらない。
それ以前に、誰かと遊びに行くことなんて不可能だと、俺自身分かっていた。
嫉妬深い君が許してくれるはずないんだ。
それはさかのぼること1日。
昨夜のことだ。



「あー…このゾンビゲームすぐ死ぬよ……つまんないぞ。ゾンビは普通撃つものだろ。なんで『洞爺湖』って彫られた木刀しか装備出来ないんだ。ジャパニーズアニメの影響か?」
テレビ画面に向かって、ハンバーガーをむさぼりながら俺は悪態をついていた。
今日買ったゲームが気にいらなかっただけなんだけど。
皆も、ゾンビに木刀は不釣り合いだと思うだろ?
  ゾンビに似合うのは、俺みたいなヒーローと銃だって昔から決まってるのさ。
「10分でクリア出来るゲームなんて初めてだぞ。あー…暇だなぁ。」
バカらしいゲームを相手にするよりドラマを見たほうがマシかと思ってリモコンのチャンネルボタンに手をかけた瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
「まったく、人がドラマを見ようとしている時に訪ねて来るだなんて、一体何処のどいつだい?」
  さっきまで暇だ暇だと喚いていたことなんて、すっかり忘れてた。
ドラマ以外頭になかったんだ。
  だって俺はヒーローだから。
「はいはい、今開けるよ。」
面倒くさそうにって、まぁ…ほんとに面倒くさかったんだけど、ドアを開けた俺の前には、よく知った…懐かしい奴が立っていた。
「アーサー!!な、なんで君がここにいるんだい!?」
  そう、ドアの前に立っていたのは、土産のスコーンを両手に山程抱えた“君”だった。
「なにか文句があるのか?お前の上司に今日行くと伝えたはずだが。」
なにくわぬ顔で部屋に入った君は、ジャケットを床に脱ぎ捨ててソファーに腰を下ろした。
「俺は聞いていないぞ!」
  そんな俺の言葉に、君は耳もかさない。
「ハンバーガーでも食ってたんだろ。」
確かに、そうかもしれない。というか、はっきり言うとそうだ。
 俺は四六時中ハンバーガーを食べてる。
  何故そんなに食べるかって?
  ヒーローだからに決まってるだろう。
  ヒーローは正義の味方だから腹が減るんだ。
 「まぁ、俺が用があるのはお前の上司にだけだがな。」
  さり気なく、付け足すように君は言った。
しばらく考えた俺は、少し冗談っぽく笑って言ってみた。
「またまた、俺に会いに来たんだろ?」
  その言葉を聞いた瞬間、君は耳まで真っ赤にして反論した。
  あ、図星だったんだ。
「バ、バカを言うな!俺はお前の上司にだな!!」
「はいはい…まったく、素直じゃないなぁ」
怒ってる君が凄く可愛くて、思わず俺は君の頭を撫でてた。
それがさらに君の怒りに触れたようで…
「黙れ!!」
俺が殴られたのは言うまでもないだろ。



今朝の俺はいつもより少し遅めに起きた。
寝坊したのに気が付いて、ベッドを飛び起きたんだけど、家中何処を探しても君がいない。
 やっと見つけたのは君の代わりに置かれた机の上の置き手紙だった。
『お前の上司と会議があるから行ってくる。夕方に帰る。』
 置き手紙を見て、俺はなんで君が家に来たのかやっと思い出した。
「あぁ、そういえばアーサーは仕事しに来たんだ。」
たった1日だけど、君のいない家は、もの凄く静かで寂しい。
そんなことを考えてると、なんだか俺が親離れ出来ない子供みたいな気がする。
実際、アーサーと一緒にいた頃のほうが、今の数倍楽しかっただろう。
「やっぱり…アーサーがいないと俺は駄目なんだなぁ。」
ほんとに小さなことだけど、しみじみ思う。
「それにしても、よくあんな早く起きれたなぁ。昨日あんなに飲んだのに。ちゃんと会議出来るのかい?」
そう、昨日はあのまま怒り出した君に付き合ってお酒を飲んだ。
それも、文字通り浴びるように。
当然、俺は酒癖が悪い君の介抱をした。
今日寝坊したのはそのせいだ。
いつまでたっても、君の酒癖の悪さは変わらない。というより、むしろ悪くなってないか?
「んー…ふぁ~……やっぱり眠いんだぞ……」
今日はオフだし、君は仕事に行ってしまったから尚更暇だ。
少しだけと、自分を甘やかすつもりで、俺は眠る事にした。
「1時間…1時間だけ………グゥー…」



薄らぐ意識の中、俺は夢を見た。



夢の中、俺はお花畑の中に立っていた。
「懐かしいぞ……ここは、アーサーと初めて会った花畑じゃないか。」
そう、そこはまだ小さかった俺がアーサーに初めて会った所だった。
大人になってからはいろいろと忙しくて、もう何百年も行っていない。
「昔はよくアーサーと2人で遊びに来たなぁ。」
  思い出にひたりながら、遠くに目をやると、遠くに小さな影が見えた。
 「ん…?なんだ…?」
少し近付いて、よく目を凝らしてみる。
  焦点が合い、目に写ったのは数百年前の懐かしい光景。
「あれは…アーサーと…俺?」
そこにいたのは、まだ小さな俺と、そんな俺に嫌々付き合って遊ぶ君だった。
面倒くさそうに俺と遊ぶ君の顔は、心なしか笑っているように見える。
  そんな君のもとへ、花の冠を持った小さな俺が駆けて行く。
 多分、小さな俺から君へのプレゼントなのだろう。
 「そういえば、花の冠の作り方をフランシスに教えてもらってから、よくアーサーに作ってたなぁ。」
  そんなことを思い出していると、あまりにも急いで走った小さな俺が少しバランスを崩した。
「あッ!!危ない!」
俺が叫んだ瞬間、小さな俺は勢いよく倒れてしまった。
心配になって急いで近くまで走り寄った俺が見たものは、小さな俺をかばって下敷きになっている君だった。
「痛っ…大丈夫か、アルフレッド。怪我してないか?」
君が小さな俺に向かって聞いた。
傷だらけの君と打って変わって、小さな俺は君がかばってくれたおかげで無傷だ。
「ぅ…だ、大丈夫だぞ。」
  君の下から小さな俺がヒョコンと頭をのぞかせる。
 「そうか…良かった。」
小さな俺の答えを聞いた君は、ホッと胸を撫で下ろすやいなや、鬼のような形相で怒り出した。
「アルフレッド!!いつもあれだけ走るなと言ってるだろ!お前はまだ小さいんだから気をつけろ!!」
多分、君は小さな俺がもの凄く心配してて大切に思ってるから怒るのだろう。
そういえばいつだったか、フランシスが言ってた。
“そいつのことが好きだからこそ怒るんだ。大切だからこそ。”
それを考えると俺って愛されてるなぁ、ってしみじみ思う。そんなことを思っている間も、君は怒り続けていた。
そんな君が恐かったのだろう、小さな俺は今にも泣き出しそうな顔をしている。
そんな小さな俺の顔を見て、君は怒るのをやめた。
「わ、悪い。少し言い過ぎたな。でも、危ないからこれからは走るなよ。」
小さな俺がうなずいた。そんな小さな俺を見て、君は微笑みながら小さな俺に聞いた。
「でも、なんで走ったんだ?」
その質問に答える代わりに、小さな俺は花の冠を君に差し出した。
「俺にくれるのか?」
  花の冠を手にとって君が言った。
「うん、アーサーのために作ったんだぞ。」
それを聞いた君は、少し照れながら嬉しそうに小さな俺の頭を撫でた。
「ありがとう。」
その言葉を聞いた小さな俺も、嬉しそうに笑った。
遠目に君の笑顔を見た俺は唐突に、アーサーに会いたいと思った。君の太陽のような笑顔を見たいと。
向こうでは小さな俺が君の腕を引っ張って楽しそうに走っている。勿論、君の頭には花の冠が。
「アルフレッド!走るなって、おい。アルフレッド…」


「…ッド、アルフレッド!いい加減起きろ!!」
「ん……おはようアーサー。」
君の声に目を覚ました俺は、眠い目を擦りながらとりあえず君に目覚めのキスをした。
「バッ!やめろ、いつまで寝ぼけてんだ。もう夜だぞ!」」
君は真っ赤になりながら俺の顔を窓に向けた。
「え?…うわ、もう真っ暗じゃないか。どうりでお腹が空くわけだぞ」
真っ暗な夜空に星が輝いているロマンチックな風景とは裏腹に、俺の腹の虫がさっきから鳴り止まない。
そんな俺の言葉を聞いた君は、得意げな顔をしながら言った。
「晩飯なら作ってあるぞ。俺特製のスコーンだ。」
スコーンと聞いて、俺は冷や汗を流した。
「嫌だよ、君の作るスコーン不味いじゃないか。」
  その言葉を聞いた君は、眉をピクリと動かすと、低い声で呟いた。
「なんだと…。もう一度言ってみろ!」
怒って暴れ出した君を見ながら俺は思い出した。
不味いはNGワードなのだ。
  まぁ、今更遅いのだが。
「あーもう、わかったわかった。」
俺は君の暴走を止めるために、君を抱き締めた。
「うわッ!な、何すんだ!」
耳まで真っ赤にしてうろたえる君をさらに強く抱き締めて俺は笑いながら言った。
「しょうがないから、食べてやるぞ。だって…」
怪訝そうな顔で君が俺を見つめる。
「なんだよ。」
そんな君が凄く可愛くて、俺は君の頬にキスしながら言った。
「なんでもないんだぞ。」
  キスで誤魔化されたのが気に食わなかったのか、君はまた暴れ出した。
「なんだよ。教えろよ!」
しつこく聞いてくる君の頭を撫でながら、俺は心の中で答えた。



だって
今も昔も
君はたった1人の
 大好きな
お兄ちゃんなんだから